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大阪地方裁判所 昭和32年(行)97号 判決

原告 能口海里

被告 国 外一名

国代理人 今井文雄 外一名

主文

一、本訴のうち、被告国に対して、別紙物件表記載の土地につきなされた農地買収処分による所有権取得登記及び売渡処分による西野泰次郎への所有権移転登記の各抹消登記手続を求める部分を却下する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告国との間で別紙物件表記載の土地が原告の所有であることを確認する。被告国は、右土地につき大阪法務局布施出張所昭和二五年四月一九日受付第二四八六号をもつてなされた農林省の所有権取得登記並びに同出張所同年五月三〇日受付第三六五五号をもつてなされた農林省から西野秦次郎への売渡による所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。被告布施市農業委員会との間で、右土地に対する農地買収計画が無効であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

「一 被告布施市農業委員会の前身である布施市意岐部地区農地委員会は、別紙物件表記載の土地(以下本件土地という。)につき、登記簿上の所有名義人である訴外森田清に対して農地買収計画を立てた。この買収計画に基づいて買収処分(買収の時期昭和二三年二月二日)及び訴外西野泰次郎に対する売渡処分(売渡の時期前同日)が行なわれ、請求の趣旨記載の各登記がなされた。

二 しかし、本件土地は、原告が昭和一八年一〇月一五日に森田から買い受けて所有するに至つたもので、右買収計画が立てられた当時所有者は原告であり、たゞ所有権移転登記が未了のまゝになつていたものである。農地買収計画及び買収処分は、登記簿上の所有者の表示に関係なく真実の所有者に対して行わなければならない。従つて、真実の所有者である原告に対してなされたものでない本件買収計画及び買収処分は無効であり、無効の買収処分を前提とする西野への売渡処分も無効であるから、原告はなお本件土地の所有者である。よつて請求の趣旨のとおりの判決を求める。」

と述べ、

被告両名は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張の一の事実は認める。原告が本件土地を森田から買い受けたこと、したがつて布施市意岐部地区農地委員会が買収計画を立てた当時本件土地が原告の所有であつたことを争う。仮に原告が真実の所有者であつたとしても、本件土地の登記簿及び土地台帳の記載を信頼してその所有名義人である森田に対して買収計画を立てたのであるから、右買収計画は無効ではない。したがつて、これに基づく本件買収処分及び当時の小作人である西野に対する売渡処分も無効ではない。

と述べた。

立証〈省略〉

理由

一、本訴のうち、被告国に対し本件土地の売渡による国から西野への所有権移転登記の抹消登記手続を求める部分については、被告国は当事者適格を有しない。すなわち、原告は、本件土地につき国から西野への所有権移転登記がすでになされていることを主張し、国に対するその抹消を求めるのであるが、右登記の抹消登記義務者は登記簿上その所有権者であると表示されている西野のみであつて、国は、登記簿上の権利者ではないから、原告に対して右所有権移転登記の抹消登記義務を有しない。したがつて国は原告の右請求についての正当な当事者ではない。

二、本訴のうち、被告国に対し本件土地の買収による農林省名義の所有権登記の抹消手続を求める部分は、訴の利益がない。転々所有権移転が行なわれている数個の登記を抹消する場合、最後の登記から順次に、あるいは同時に抹消すべきものであつて、現在効力を有する最終の登記名義の表示をそのまゝにしておいて中間の登記を抹消することはできないものと解する。西野の所有権の登記が抹消されて、登記簿上国が最終の登記名義人となつた時に、はじめて国は現在の抹消登記義務者の地位に立つ。この意味で、原告の本訴請求は将来の給付請求であると解することができるが、原告が本訴で西野の登記をさしおいて(国に対して西野の登記の抹消を求めてはいるが、これが許されないことは先に述べたとおりである。)国に対する将来の請求権を行使しなければならない必要性は、原告の主張によつては認めることができない。

三、次にその余の請求の本案について判断する。原告主張の一の事実は当事者間に争いがない。そこでもし原告主張のように、原告が昭和一八年に本件土地を森田から買い受け、本件買収計画が立てられた当時原告が真実の所有者であり、たゞ所有権移転登記が未了となつていたに過ぎないものとすれば、これを看過して、単なる登記簿上の所有名義人であつた森田に対して立てられた右買収計画は違法である。しかし、その違法は右買収計画の取消原因となるだけであつて、これによつて右買収計画が当然無効となるものではない。(最高裁判所昭和三三年四月三〇日大法廷判決)。これと反対の見解を根拠とする原告の被告布施市農業委員会に対する請求及び被告国に対する所有権確認請求は理由がない。

四、よつて、本訴のうち、被告国に対し本件土地につきなされた買収処分による所有権取得登記及び売渡処分による西野への所有権移転登記の各抹消登記手続を求める部分は不適法であるから却下し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯隆 高橋欣一 松田延雄)

物件表〈省略〉

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